東伊豆サイクリング
(初めてのゴミ袋輪行)

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基本データ

ラン実施日 2013年01月26日(土)
コース概略 熱海 → 伊東 → 富戸 → 宇佐美(50km)
天候 快晴、強風、極寒


本文

はじめに

佐渡ロングライドの練習として伊豆を走りに行ってきたんですが、トラブルに見舞われ、ほうほうの体で帰ってきました。

でもこういうトラブルというのも話の種としては面白いかも。と思い、レポートにまとめてみます。

練習コース概要

今回のコースは熱海を起点/終点とし、東伊豆を南下して伊豆高原駅付近で折り返し往復するというものです(上地図参照)。当初予想していた距離は 70km 程度。余裕があれば熱川あたりまで足を延ばそうと思っていました。

東伊豆を選んだのは、鉄道(伊豆急行線)が走っているので何かトラブルが起こった時に避難しやすいだろうと予想したからです。

でも、まさか本当にトラブルに逢うとは思っていませんでした。

 

スタート地点 - 第1のトラブル

2013年1月26日 9:00。

熱海駅前で、僕は途方に暮れていました。

輪行袋を開けて自転車を組み立て始めたら、前輪クイックレリーズ(以下 "QR" と略)シャフトの調整ナットとタケノコバネがありません。記憶を辿ると、朝に家を出て最寄駅で自転車を輪行袋に仕舞う際に置き忘れてきたようです。

さて、どうしたもんか。

ハブ軸を固定しないで走ったならば、最悪の場合走行中に前輪が外れて大惨事を招いてしまいます。何かしら工夫して、シャフトが抜け落ちないよう手当てをしなければいけません。

手持ちの部品で何とかならないかとサドルバックをひっくり返してみましたが、さすがに QR 調整ナットの予備などは入っていません。なぜかカメラ三脚用の 1/4 インチナットとワッシャーがありましたが QR ネジとは規格が異なり、合いません。

とりあえずタイヤのバルブキャップとワッシャーを組み合わせて応急手当てを行いました。

もちろんこんなあしらいでは心もと有りません。バルブキャップは「何とか引っ掛かっている」程度のものなので、ちょっと力が加わればすぐに抜け落ちてしまうでしょう。これで走るのは無理ですが、とりあえず手押しで自転車を移動させるくらいの役には立ちそうです。

駅前の交番に行き「自転車屋かホームセンターは有りませんか」と訊いてみたところ「港に下って 1.5km 程行くとホームセンターが有る」とのこと。それでは行きましょう。そこまで。

そのうち、本日の同行者であるM野さんが到着しました。事情を説明し、ホームセンターまで同行してもらいます。


大きな地図で見る

ちなみにこの日はこの冬一番の寒さで、おまけに港に近いせいか強い風が吹いていました。二人凍えながら歩き、三十分ほどしてホームセンターに到着しました。(本当にごめんなさいM野さん)

ホームセンターの自転車コーナーをのぞいてみると、残念ながら置いているのはママチャリばかりで QR ハブやパーツは有りません。次善の策としてナット固定を試みます。ホームセンターにあったネジ規格確認冶具を用いたところ、シャフト先端のネジは M5 でした。特殊な規格のネジで無くて一安心。M5 ナット(JIS規格品)なら容易に入手できます。

とはいえ、自転車のように振動が加わるものにネジを使う場合には注意が必要です。それはネジが振動で緩む可能性があるからです。今回は緩み防止としてはダブルナットを行いました。スプリングワッシャーやナイロンインサートロックナットを使用するよりも効果が高いと思ったからなのですが、大袈裟だったもしれません。でも、万が一緩んだら洒落になりません。

そのためにレンチを二個買うことになりました。ナット自体は二個で十数円程度ですが、道具を含めた合計金額は二千円程度。予想外の出費ですが安全には代えられません。勉強代と思うことにします。

 

出発

さて、やっと出発です。

なんだかんだで当初の出発予定を一時間も遅れています。10:30 にホームセンターを出発しました。

しばらくはネジの弛み具合を確認しながらゆっくり走ります。ナット締結はしっかりしていて全く弛む気配はありません。OK。これなら今日の走りは大丈夫でしょう。

それにしても無くしたのが前輪 QR ナットだったのは不幸中の幸いでした。後輪だったら走行中に状態確認も出来ません。

 

ゆっくりと、熱海から国道135号線を南下していきます。このコースは初めて走りますが、起伏だけを見るなら自分の練習に丁度良い感じです。三浦半島よりもややきつめの坂は自分に取ってなんとか走り続けられる程度で、程良く脚に応えます。

とはいえ「このコースは自転車の練習向きか」と問われたとしたら、あまり強く勧める気にはなれません。それは安全性に問題が有るからです。

このコースには頻繁にトンネルが現れます。しかもそれらは古くから在るものらしく、中が暗くて路肩が狭いので走りづらくてしょうがありません。その上場所によっては結構な交通量があるので、道路傍に押し遣られる自転車は路肩と道路境界のガタガタした路面で不安定な走りを強いられることになります。

実際、今回の走行中にも一度、M野さんはトンネル内で道路傍に追い遣られ、路肩にある歩道との段差にペダルをぶつけるという大変危険な目に遭いました。もしそれがきっかけでバランスを崩し、自動車に接触するとか転んだりしていたらどうなったか。と考えるとぞっとします。

 

苦行

繰り返し現れるトンネルに悩まされながら南下を続けること数十分。宇佐美辺りまで走るとやっとトンネルが途切れます。左手に相模灘を見ながら海岸沿いを走る楽なコース、と思いきや、ここから伊東を越える辺りまでは強烈な向かい風に悩まされることになりました。

平坦な道を走っているだけなのに、一番ローギヤに入れて漕がないと進めない。なんて初めての経験です。ちなみに自分は体重が有るのでまだ良かったのですが、小柄で軽量なM野さんは風に流されてまともに走れなかったそうです。

おまけに風がとても冷たい。

結構な体力を使っているので走っている最中はまだ暖かいのですが、停止するとすぐに体温が奪われます。下り坂など漕がない場所でも同様でどんどん身体が冷えてゆきます。

なんか自転車の練習というより苦行を行っているような気分になってきました。

 

出発が遅れた事も有り、川奈を越えた辺りで12時を過ぎました。そろそろ折り返さないと熱海到着前に日が暮れてしまうかもしれません。昼でさえこんなに寒いのですから、陽が暮れたら凍えてしまいます。

しかもここ東伊豆は西に天城山々を有しますから日の入りを早めに見積もっておかないと危険です。早々に退散する事にします。

県道109号線から富戸駅を越え国道135号線に戻ります。そしてそこから折り返して熱海に向かいます。富戸は大室山に近くて標高があるので伊東までの道路は下りが主体。なのでそれほど走り辛い事は有りませんが、先ほど同様漕がない下りなので身体が冷えます。とにかく寒くてたまりません。

 

伊東、宇佐美 - 第2のトラブル

帰りに伊東を通過すると、またしても強い向かい風に迎えられました。「さっき向かい風だったんだから今度は追い風にしてくれよ」と心の中で風神に訴えるのですが全く聞き入られる気配がありません。

宇佐美辺りまで来て、コンビニで休憩。そしてこれから先はまたあの危険なトンネル群が待ち構えています。

なんか、うんざりしてきました。

熱海まで走れない事はありませんが、練習するメリットより、トンネルの危険性とか寒さによる体調悪化の可能性とかいったデメリットの方が大きいような気がします。

M野さんも同様の気分だったらしく、どちらからとも無く「やめよう」という事になりました(笑)。これ以上やってられません。宇佐美駅から伊豆急で熱海駅まで戻ります。

 

とはいえ、今日のランは「佐渡での走行を想定して、出来るだけ身軽に走ろう」という事にしていたので、二人とも荷物のほとんどを熱海駅のコインロッカーに預けて来ています。輪行用具の手持ちが有りません。「それじゃあ『ゴミ袋輪行』でもしましょうか」という事になりました。

「ゴミ袋輪行」- これは輪行歴の長い方なら一度は経験された事が有ると思います。その名の通り、ゴミ袋を輪行袋の代わりにして電車などで運ぶ方法です。

「なぜわざわざゴミ袋で輪行袋をこしらえなきゃいけないのか」という疑問を持つ方もいらっしゃるかもしれません。これは、鉄道会社(主にJR)の規定により、専用の袋に収納しない自転車は鉄道車両の中に持ち込む事が出来ないからです。
(詳しくはJR東日本 旅客営業規則を参照)

ということで、二人でゴミ袋輪行に挑戦します。ちなみに二人ともこれまでゴミ袋輪行の経験は有りません。が、なんとかなるでしょう。もとよりこういう緊急事態への対応は事前予測が困難なので、この場で考えてなんとかするしか有りません。

まず最初に計画を立てます。

自転車をある程度解体してゴミ袋でくるめば規則上は鉄道車両に乗せられるとはいえ、いくつか配慮しなければいけません。例えば

  • 自転車を傷つけないようにする
  • 他の乗客の迷惑にならないようにする
  • 持ち運びやすいようにする

などといった点です。

これらを考慮して、フレームやフォークは出来るだけ保護し、チェーンやディレイラーといったオイルをまとった部分は他の乗客に対する汚染防止のためカバーするようにします。また、運びやすいまとめ方も考えなければいけません。

そして準備するものとしては

  1. ゴミ袋
    (輪行袋本体、また、汚染防止カバーとしても使う)
  2. 段ボール
    (自転車本体を衝撃から保護する)
  3. ガムテープ
    (ゴミ袋や段ボールを固定する)

  4. (全体をまとめて持ちやすくする)

などを考えました。

ところがコンビニに入ったところ、ガムテープも紐も有りません。代わりになりそうなもの...も、残念ながら見当たりません。これらは別の店に探しに行かなければいけません。

この店で入手できたのはゴミ袋と段ボール箱。幸いゴミ袋は大判のもので、700C サイズの車輪がそのまま入れられそうです。これは良かった。それからお店の方の好意で段ボール箱は二個ほど無料で分けてもらうことができました。(ポテトチップスの箱でした)。

そしてコンビニの店員さんに「文房具屋かホームセンターは有りませんか」訊いてみたところ「海岸線沿いを 0.5km ほど北上すると文房具店が有る」との事。それでは行きましょう。そこまで。

そして段ボール箱を小脇に抱えて寒風吹きすさぶ中歩き始めます。ほんと M野さんには申し訳ない。とんでもないランになりました。

なんか今日はこんな事ばかり繰り返してような気がします。

そして宇佐美駅前商店街の文房具店でガムテープと紐を入手して出ようとしたところ、M野さんから「K林さん、カッターか鋏が要るんじゃないですか?」と声を掛けられました。

鋭い。M野さん流石です。

さっきのリストには抜けが有りました。買わなければいけないものとして「材料」しか挙げていませんでしたが、その他に「道具」(カッター、鋏とか、場合によっては筆記用具)が必要です。

もしかしたらこのレポートを読まれている方も気づかれていたかもしれません。こういう配慮の緻密さが危機管理能力の一端を示していると思います。自分の未熟さを痛感しました。

 

さて、気を取り直して、それではいよいよゴミ袋輪行に取り組みますか。

 

レシピ

用意するもの(2人前)

  • ゴミ袋 大8枚
     (タイヤが入るサイズがお薦め)
  • 粘着テープ 適量
     (ビニールテープやガムテープなど、テープ自体の強度があるもの)
  • 紐 2m
     (全体をまとめて持ちやすくする)
  • 段ボール 「ポテトチップス」箱 二個
     (自転車本体保護。手に入らない場合は別のものでも可)

必要に応じて道具類(カッター等)も準備してください。

一人前 1,000円弱。

作り方

  1. 自転車をひっくり返し、ホイールを外します。
  2. フォークとフレームの主要部分を段ボールで保護します。
    ■オレンジ色が段ボール部分です。
  3. クランク、チェーン、前後ディレイラーを汚染防止のためカバーします。
    ■緑色がゴミ袋部分です。
  4. ホイールのハブ軸を段ボールで保護します。
  5. 汚染防止の為、ホイールをゴミ袋でカバーします。
  6. 持ちやすくするため、ゴミ袋に入れた二つのホイールを更に一つのゴミ袋にまとめ入れ、紐で縛ります。
  7. 出来上がり
    所要時間はおよそ一時間弱というところです。

作業に際しては部品の忘れ物が無いように気をつけてください(クイックレリーズ調整ナットとか)。

 

危機回避

M野さんに大変迷惑をかけている現実を考えると不謹慎な話ですが、正直に言うとこういうトラブル対応はそれほど嫌いじゃありません。むしろ見方によっては楽しかったりします。

 

何故楽しいかというと、...ちょっと大袈裟な表現で気恥ずかしいのですが、例えるならば小惑星探査機「はやぶさ」。

あの探査機の偉業を記憶されている方も多いでしょう。絶望的なトラブルに遭いながら JAXA のチームは困難を一つ一つ乗り越えることで危機を脱しました。

それから、個人的に更に印象深いのはアポロ13号(Apollo 13)。

こちらの事件ははやぶさ以上に劇的で、有人月面探査船アポロ13号が宇宙空間で爆発事故を起こしながら、NASA はもちろん世界中の技術者の協力で地球への帰還を果たしています(映画にもなりました)。

どちらも「難局を勇気と知恵と努力で乗り越えた」という点において力を与えてくれるエピソードです。

自分がトラブルに遭うときにはそういう想いが心に射します。「こんなトラブルに負けるものか」と思うのです。

 

とはいえ、誤解されないように付け加えますが、やはりトラブルを起こすのは未熟の表れです。けして褒められたものでは有りません。事前の計画や自転車点検・調整の甘さによるものが大半です。

そして、まさに今回の一連のトラブルは自分の計画の甘さによるものです。迷惑をかけてしまったM野さんには大変申し訳ない事をしました。

 

熱海帰還

そして陽が暮れる前に無事熱海に到着しました。

初めて挑戦したゴミ袋輪行。その自転車は我々に取っては勇気と知恵と努力の結集した作品といっても過言では有りません。光り輝いています。

熱海駅前で記念写真を撮っていたら、通りすがりの人が「何これ?ゴミか?」と呟いて通り過ぎました。

やっぱり普通そう思うだろうなあ。

...でも違うんだよ!

 

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