最終更新日: 2006年1月9日
耳よりな耳の話
わた辺
 香ばしい匂い、工夫に耐えうる形、一日に一度は遭いたいもの、食したいもの、そしてこの上ない

安価な物、何十枚入って「百五十円」なり。それはパンの耳である。

食パン一本人りの袋にぎっしりと詰まっていてこれを前にすると嬉しくて俄然わたしはハッスルする。

風味を損なわないよう即、下ごしらえをする。お客様用に朝食用に、又贈り物用にと料理方法を

色々変える。

(1)フレンチトースト

 二センチ位の厚いのは四辺の耳を断ち切りたて長に二つに切り、ガラスのオープン皿に並べる。

 材料:玉子、牛乳、サトウ、エッセンスを混ぜ、たっぷりと流し込み、一晩つけ置くとパンが吸い上げて

     フワフワにふくらむ。オープンでこんがりと炊くか又はそのまま冷凍する。

(2)ピザパン

 一センチ位の厚みの耳は向かい合ったこ辺を切り落とし残りのニ辺はどっさりの野菜を支える。

 ピザの生地を作ったり買ったりしなくても代用出来、軽い一食分に丁度良い大きさである。

 材料:バター塗布、玉葱薄切りを一杯に敷く。マッシュルームの薄切りを少々ならべる。

     トマト5ミリ厚みに切ったのをぎっしり詰めて並べ、ピーマンの輪切りを並べる。ここで塩、

     コショウをふる。その上にベーコン、エビ等敷きメルティチーズをのせると載せた厚みは

     2センチ位になる。ガスオーブンで180度十五分、チーズに焦げ目がつく。

     好みでタバスコ等かける。

(3)ラスク

 厚み五〜セミリ位の耳の四辺をたち切り更に四つに切る。カリッと歯ごたえが良く硬いので食べ易く

小さく切る。

材料:バターを塗り、トッピングを載せる。アーモンド、ピスタチオ、カシュウナッツ、ピーナッツ、松の実

    等のスライスや乱切り、ゴマやけしの実、ココナツ(私が特に好き)等々載せてオーブン皿

    三段にぎっしり並べ低温100度で五十分焼いて水分を飛ばし、出しぎわに温度を少し

    上げてキツネ色、美味しそうなこげ目をつける。

(4)クルトン

 耳を断ち切った残りを一センチ角切りにする。専門店は油で揚げているが私はオープンで焦げ目

をつけて冷凍して置く。

(5)だんご

クルトンにも使えず穴の開いた耳や薄い形の崩れた耳等、水分を含ませて一握りのだんごに絞って

ハンバーグのつなぎの為に冷凍して置く。

(6)パン粉

 ハンバーグのだんごの残り、くず耳はバットに並べ低い温度で炊き、手揉みをしてパン粉にして

これも冷凍する。冷凍は鮮度を保ちカピを防ぐ上、炭水化物は冷凍することでうま味を増す作用

がある物質との事。

一本の耳がこんなに色々と楽しませてくれる。我が家のお客様を感嘆させる。「こんなの食べた

ことない!」「売ってない!」と言葉が弾む。

その他色々と工夫を凝らし心をこめて作ったものだから美味しくて当たり前である。その上、

下心がないから尚更である。

(七宝工房見学も無料)。

いかに物を尊び愛し大切にして共に分かち合い、恵みを感謝するか。これ人間の基本である。

パン屋に耳を買いにくる多くの人は「豚にヤル」「犬にヤル」と言って買う。私が話すと「是非店に

並べて下さい」と言われた。そこ迄暇はない。昔、子供がうまれる前、近所のキッサ店に特大

シュークリームを売り込んだ。それ程自慢のヨダレが落ちる程の美味しさである。

 契約している店の手前もあるので一日5ケ限定で引き取ってもらった事があるが残りや型崩れ

の方が多くて引き合わなかった。

 ガスオーブンは娘時代、レストランを止め料理教室を始めたおじいちゃん先生の所へ仕事帰り

夜間に通った。「お嫁に行く時は着物も道具も必ず要らなくなる時が来る。ガスオーブンがあり

使いこなせばバラ色の日々よ!!」と教えてもらった。正解であった。

三十年余り毎日使う。親類、友人達の中にオーブンを持っている人は只一人の友人だけ、

彼女は焼きいもとパンしか焼かない。お客様に何の御馳走を?と迷わずオーブン料理で

百二十パーセント受けが良い。特に気に入った人は七宝なんか止めて「コースでランチオリ

ジナル」の会員を募集したらきっと受ける。等と言ったりする。

じゃだれが七宝を作ってくれるの?後継者も育たなく(それ程七宝は難しくバカとキチガイ、

スレスレの線で何とか・・・)その上私の世代がヤングと来れば、どうにか命をつなげられる物が、

食れれば材料費に投資する。常に何百万円分の材料を握っている。七宝、鍛金彫金を

手掛けているので材料を加工する為の工具類だけでも半ぱではない。

小一年かかって作品が出来ても(時に終わりに近づいて失敗し没にすることも)即、誰かが

買って下さる訳でもない上、どんどん売ってゆけば手元に作品がないと個展披露が出来ない

から今だに握っている。一ケ三越で展示中、手違いで売れて金沢にお嫁に行った丈。

(資金は生徒の月謝で足りず、生活費をきりつめて作る。この件はいかにしてゆくか?

これからの課題。)

話をもどすと、

 八年前にガスオープンと電子レンジがワンタッチで切り替わるコンペックに(業務用)変える迄、

一台目は温度計も壊れ、点火口壊れても勘で何とか使って周囲の人々に喜びと感激と思い

出を与えて来た。「おじいちゃん先生ありがとう。今もづっと感謝していますよ!!」色々な節目

にこうしていつ迄も忘れられない恩人があちこちに増えた。大勢のステキな人達にめぐり逢えた。

 一時が万事、こうして全ての面で心掛け、お金も時間もそれはそれは大切に大切に使って来た。

一つ一つの事柄で小説が書ける位、但し文才があれば・・・。

ひとつの例を挙げると、洋服は三十年前に作った物(私は元服飾のプロ)八十円×六メートル、

480円で作った透けた黒地に点々の入ったパンタロンスーツ、先日似たようなのが銀座で六万

円で人形が着ていたが一昨年の或る卒業式に参列したら「ステキネ!!」と声がかかった。

 勿論、何十年も昔の服を着るにはフツウの暮らしではぜい肉がつき一般的になる。

健康面も考え併せ、実物はやつれ果てながらもせめて寸法丈は維持する

努力はしているうちにマラソンが日課となり、ついにフルマラソン河口湖二周半も三回もクリヤー

した。鉄アレーも四キロ、スクワットも五十キロをやってる頃は記録も更新していたが近頃は

年令と相談しもっぱら楽しく励んでいる。夜明けの運動。汗。朝風呂等で自律神経を刺激し、

アドレナリン前葉ホルモンの分泌促進で精神統一。神経を集中。意欲を高める事が出来、

朝方9時〜11時頃大切な工程に打ち込める。

 鍛えた筋肉でペダルをルンルンとゆき度い処だけど仲々YMCCの皆様と御一緒出来ない。

第一の理由は常に時間に追われ(作品が仲々で−)又、オンボロ自転車でついて行って

皆々様に御迷惑にならないかしら?と案じたりもする。が「渡辺のお姉様!?」と廻りの目も

感じている。まあ、新年会や忘年会なら御迷惑にならないかしら、と出席させて戴いた。

皆様ありがとう。それと毎月郵送下さる。「レポート」は活字の中でひととき別世界の空想の

楽しみが味わえる。筋肉を整えていつの日か御一緒させて戴くのを夢見ている。

                                −やつれたジョイナーより−

 文明の進歩と反比例して人間は怠慢に成りそのつけが地球をこんなに迄汚した。

そう反省し乍ら私自身流されている。

 せめて唯一私の出来ることで、人生の宿題に様々な事柄で浮かせた「時」と「健康な体」

を生かして、伝統工芸、希少で貴重な七宝分野の道を一筋に20年賭けて来た現在、

この大変な世相にのん気に「美術」だなんて造っているのも誠に心辛いもの。かと言って今更、

軌道修正も又、許せない。めざして来た七宝個展の中に「エイブルアート」手で見る形、工程

をキャッチフレーズに「出前、わた辺七宝館巡回個展」を動ける限り開催し、社会環境と新た

なる出合いの土地、風土人々に期待を一杯ふくらませて只今準備に追い込み中です。(無一

文なのでどこか会場をお貸し下さい。どこへでも巡回個展を致します。)

 第二回個展はすでに山梨昇仙峡七宝美術館で平成十三年、夏一ケ月会期を頂いてお

ります。観に来てください。

第一回個展は東京又はあとりえを開設した新幹線の止まる駅、熊谷で開催したく只今、交

渉中です。「出前」をつけたら「ラーメンみたい!!」とある人が言った。DEMAEは英語になくて

世界に通用する立派な日本語との事で嬉しかった。美しい気に入っていた連峰。丹沢2の

塔3の塔裾野にH2年、住居兼七宝館を建てた。やがて同居人夫次第で状況を変えぎるを

得なくなった。

 この「出前」のたったふた文字が悩み抜いていた私にある日活気と希望を与えてくれた。

「一文無しでもゆける所迄ゆければ人生、それでいいじゃないか!!」と人生観をバラ色に染た。

見学者、生徒を自宅に招かないで身を動かし七宝館の全てを持って「いかがですかあ?」と

ラーメンの様に廻れば良いだけの、たったそれ丈の小さいことで余分な神経を使っていたのであった。

 ドロボーと浮気以外は”何でもやる気”で挑み只今、日々満ち足りている。

(現実はヤリクリに悲境をあげている)

皆様、何かと御助言、御指導をお願い致します。

貧乏七宝作家より

平成十二年二月


泥釉七宝工芸会

出前わた辺七宝館 主宰

日本工芸会正会員