YMCC実践メカ講座
制作監修:O湖
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番外編 現代メカ雑論

 現代の自転車部品は、功罪を併せ持っていると思います。
 取扱いの難しかったものが、慣れないどなた様にも扱えるようになったこと。これが現代自転車部品の功績、技術の進歩、時代の変化と申せましょう。

 そのいっぽうでは熟練を要する、細やかな作業が駆逐されています。
 たとえば指先に精神を集中し、ガタつきと締め過ぎの境界に線を引くような玉押し調整作業。すでにハンガー部では不要となり、前後ハブにも左右ペダルにもなくなりつつあります。ヘット上下碗調整も「アヘッド」方式により簡便になりました。

 車輪は「完組みホイール」と呼ばれるユニットになり、スポークを編むのが当たり前だった元祖車輪は、わざわざ「手組みホイール」などと分類されるようになりました。もちろんスポークの張力調整など、メカオタク扱いとなってしまったかのようです。

 これらにより、自転車のメカいじりに高度な熟練を要する匠的な要素、ある意味では宗教的とも言える高尚な精神性が減少しているように思います。これが現代部品の「罪」です。誤解を恐れずに申せば、現代部品は消費者を愚民化する傾向にあるようにも思います。

ま、実際には明るい未来にあるのですよ。

 昭和40年代を想起してみましょう。当時の左右クランク取り付けは、「コッタード」方式が主流でした。
 これは楔(くさび)状のコッターピンによってクランクを取り付ける方式です。クランクシャフトの両端には浅く幅のある溝が切ってあり、クランクにはコッターピンを通す穴があいていました。コッターピンがクランクシャフトの溝に嵌まってクランクを固定するのです。

 左右のクランクが一直線になるようコッターピンを打ち込む勘どころが難しかったですよ。慣れないうちは左右が揃わず「く」の字状になることが多かったです。このときはコッターピンを平やすりで擦り合わせする必要がありました。

 またコッタードは、楔による固定法ゆえ整備性に劣り、ハンガー部のグリス交換などじつに不便でした。整備後のクランク再組み付けでも、同じピンが合わずに再び擦り合わせすることもありましたっけ。それと横からの衝撃には意外と弱かったです。ペダルを縁石にぶつけたり、機体を無防備に倒したりすると、微妙に角度がついたりしてました。なんといってもコッターピンを使った固定法による生産性が足かせになりましょう。工程が多く、組み付け精度もコッターレスとは比較になりません。あれだけ栄華を誇った「コッタード」クランクも、いまでは国立技術博物館にでも行けば見ることができるのでしょうか、てなくらいの状況に追いやられました。

 当時コッターレス方式のクランクは、競技用の超高級機種にだけ許された超々高価な部品でした。アルミ鍛造による強度、精度、耐久性に優れた自転車人あこがれの部品だったです。翻って現代では、ママチャリにさえ付いている汎用的なものになりましたからね。クランクといえば猫も杓子も「コッターレス」です。鋳造製の廉価な普及品クラスのものが生産されるようになり、これを大衆車の代表となったママチャリ製造各社が採用しましたから。実用的な強度を有し、その構造から左右クランクが確実に一直線になり、これを組み付ける工程も簡便になりました。

 この流れで推察すれば、いずれ量産効果により廉価にして普及版の「ホローテック※」方式によるクランクが、ママチャリ領域まで席巻するのは夢ではないように思えます。少ない部品点数、取り付け(製造行程)の容易さなど、クランクの中空構造を省いて鋳造製品を実現すれば、製造費用を低減して普及に弾みがつきましょう。

※参考:ホローテッククランク
クランクにクランクシャフトを嵌合し、一体構造としたもの。クランクシャフトは中空になっていて、剛性と軽量化を併せ持っている。この方式の上級製品は、クランク本体も中空構造となっている。

以上


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