最終更新日: 2008年10月23日
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2008 しまなみ海道サイクリング
金比羅詣での記

10月13日午後零時すぎ。

 今治駅構内の待合室で「宇和島のジャコテン」を肴に缶ビールを飲んで、さらに「鯛の押し寿司」「鯛めし弁当」を買い込み、意気揚々とホームに上がる。午後零時57分、「しおかぜ16号」が滑り込んできた。N島さんは指定席車両へ。当方2人は自由席。すいている。並んで着席し、「まずは弁当…」。押し寿司が美味。白身の鯛のネタから透けて見えるシャリがもっちりとして、いかにも関西の押し寿司らしい。少し甘みがきついのが気になるが、この季節、沿線のそこかしこには秋祭りのノボリが立ち、お祭りの席に呼ばれた気分。車窓から差し込む陽光に背中をあぶられ、ビールの酔いも回って、ついうとうと。

 新居浜を過ぎたあたりから、乗客がどんどんやってきて、たちまち車内は満員。立ち席の人が何人か。普段はがらすきのJR四国の特急も、三連休の最終日らしい込みようになってきた。2時27分丸亀着。N島さんにお別れのご挨拶もせず、下車した。

 駅前で自転車を組み立てる。コップ酒を手になにやらわめいている酔ったおじさんのほかには、人影もまばらな駅広場。立派なお城や猪熊玄一郎美術館のある古い町のようだが、何とか明るいうちに金比羅さんに着きたいと、名所、町並みを見物する間もなく、駅から東へ土器川沿いの自転車道を目指す。

 「大規模自転車道」のサイトで知ったこの専用道は、土器川の堤防上ではなく、河川敷の中を川上に向かって進む。当然ながら信号はなく、人もいないので快適ではあるが、展望は川と土手が見えるだけ。おにぎりみたいな三角の山(後に讃岐富士といわれる飯野山、標高421.9メートルと知る)がわずかにアクセントを添える。連れ合いは、「これじゃあ多摩川と変わんない」と不満そうだったが、まあ青空とさわやかな秋風を切って疾走するのはどこであれ悪くはない。

 12、3キロ走ったところで堤防に上がり今度は普通の道を西へ、琴平町に。やがて道は細くなり、住宅街に入り、土讃線の踏み切りを渡ると、門前町らしい店々が。金比羅さんに来たと実感。
道の突き当たり、石の階段が続くのを見て、自転車はここまで。
階段脇に駐輪して、後はひたすら登る。「かごに乗って」の誘いは無視。こんぴら名物の飴の「試供品」はありがたく頂いてエネルギーを補給した。
最初の山門まで上って来たら居並ぶ人たちが遠くを見ながら「まあ、きれい」と。振り返れば夕日を浴びた讃岐の平野が黄金色に輝いている。籾殻を焼いているのか、うっすらと細い煙も棚引いて、中央には、なるほど先ほどの「富士」が鎮座ましましている。

 さらに続く石段の途中で、かみさんは「この先の高橋由一館で『川喜田半泥子展』をやってるから、それを見てくる。金比羅宮は、前に来たし、あんた一人で行っといで」。
案内人に振られた小生は、やむなくとぼとぼと登り続ける。785段を上り詰めてやっと本宮に着いた。
境内の端、赤い手すりの向こうに先ほどよりスケールアップした讃岐平野が展開している。讃岐富士こと飯野山から左に目を転じると、瀬戸海峡大橋の橋脚が夕日に輝き、けさ見たしまなみ海道とはまた違った瀬戸内海の趣き。黄金色に染まる下界を眺められ、感謝の気持ちでお守りを買い求めた。紋の模様が「○の中に金」のようにもみえる。なるほど。

 お参り済んでさあ晩ご飯。
讃岐うどん評論家の当家の二女が教えてくれた「琴平の名店・宮武」を探して琴平町を走り回る。そろそろ暮れなずんできた町は、清少納言の「秋は夕暮れ。夕日のさして、山の端いと近うなりたるに、鳥の寝どころ行くとて…」(枕草子)の世界。風流より空っ腹を何とかしなきゃと、やっとのことで探し当てた名店はなんと「午後3時で閉店。翌日午前9時開店です」。

 仕方なくJR琴平駅近くまで戻って、灯りのついているすし屋のような食堂で「うどん定食」を頼んだ。太巻きとうどん、小鉢というあまり見ない取り合わせ。しかも量が多い。太巻きの残りをパックに詰めて夜食用に持ち帰り、琴平6時47分発の土讃線特急「南風24号」に乗る。
自由席は満員、指定席にわずかに空席があるのを見つけ、車掌に切符を変えてもらう。列車は長い瀬戸海峡大橋をわたり7時40分岡山着。
岡山駅の駅ビルは新横浜より垢抜けている。「表参道茶寮」なる喫茶店で時間をつぶし、午後10時過ぎ山陽線ホームに移動した。

 高松からの「サンライズ瀬戸」が入線、続いて出雲市からの「サンライズ出雲」がやってきてドッキング。「瀬戸」の最後尾と「出雲」の最前部がドーンという音をたてて合体する様は鉄道ファンには見ものらしく、大勢の人がカメラを構えて見守っていた。

サンライズ瀬戸8号車23、25番。B寝台ながら個室。十数年も昔、上野発金沢行き「北陸」の個室寝台「ソロ」を使ったときはえらく狭いとおもったが、瀬戸の「シングル」は天井高もあって、まあまあ。輪行袋の自転車も問題なくベッド脇に置ける。

 10時33分発車。バッグから文庫本を取り出し寝転んでページを追う。振動に身を任せるうち、姫路までは覚えていたが、いつしか眠ったらしい。
目覚めると14日午前5時26分、沼津だった。顔を洗いに出かけ、ついでに列車内を探検。シャワー室(有料)は「故障中」で使えなかったが、喫煙ルームがあるではないか。早速寝覚めの一服。
個室に戻り外の景色を眺めていると、6時過ぎ大船を通過。ホームはすでに電車を待つ通勤の人たちがぎっしり。「労働者諸君。今日もお勤めご苦労さん」。寝転んで寅さんのセリフを口にし、優越感に浸る。

 6時33分横浜着。京浜東北に乗り換え鶴見下車。再び自転車を組み立て、鶴見川の土手を、朝のトレーニングを装いながら帰宅した。

(それからふろに入り、夜食用に持ち帰った太巻きを食べ、何食わぬ顔で出勤したのです。休まず、遅れずのサラリーマンはつらいのです)

                                  以上