最終更新日: 2006年1月9日
山水と自転車
藤澤
 若いころから出世間的なことばかり心ひかれている。


 二十代後半から三十代前半は、中国文人趣味に染まっていた。書道、古典文学、そして南画。

与謝蕪村、池大雅、そしてなによりも石涛(せきとう)の世界。

 石涛。

いうまでもなく、中国、清初の著名な文人画家。明の宗室の出身。そして不世出、空前絶後の天才

(と私は思っている)。

「自然の中を消遥するひとりの高士と、山水の奇観に遭遇したときの驚きと歓びとは、石涛の絵画の

永遠に変わらぬテーマである。」(新藤武弘「山水画とは何か」福武書店)

 石涛の描いた黄山や廬山の風情を求め、上州・妙義山や房州・鋸山の山中を彷徨い歩いたのも、

今は昔。

 黄山、廬山ではないが、六年前、機会あって山東省・秦山に登った。そのときの思いは複雑だった。

石段を登るにつれ、満ちてくる感動とともに、奇妙な疎外感がつきまとった。つまるところ、そこは異国

の山水だった。

 帰国後、それまでどっぷり浸かっていた中国文人趣味とはしだいに縁遠くなり、中国語の学習も

中断してしまった。

 学生時代の友人に誘われ、同人雑誌に小説らしきものを載せはじめたのがその頃のことだ。

今度はアマチュア作家気取りの私。

lO月30日。三郷から江戸川沿いに、野田、関宿の城市に遊び、利根湖畔まで。帰路、幸手から

輪行。

11月6日。藤野から奥牧野、網子トンネルを経て、青根から神ノ川林道を紅葉の丹沢山中へ。

大越路トンネル、丹沢湖を半周して谷峨駅へ。

11月13日。職員旅行に乗じて修善寺まで輪行。国道を避けて湯ヶ島へ。紅葉の天城路。

旧トンネルを抜けて湯ヶ野、川沿いに河津まで走り輪行で熱海。旅館へ。

ll月14日。三島から柿田川。香貫山、千本松原、若山牧水記念館。田子の浦海岸吉原

新富士駅まで。

11月20日。久里浜で組み立て、フェリーで金谷へ。新舞子浜、東京湾観音、佐貫から紅葉の

鹿野山へ。九十九谷展望台、マザー牧場からダウンヒル。上総湊駅で分解。

11月26日。新富士まで輪行。田子ノ浦からフェリーで土肥へ。戸田、井田、大瀬崎。紅葉の

断崖と白い富土、紺碧の駿河湾。三津浜を経て伊豆長岡へ。


12月11日。 早朝、湯河原駅で組み立て、つばきラインを登る。しとどの窟(いわや)、白金林道。

途中自転車を停めて幕山山項へ。真鶴半島、初島、伊豆大島、天城連山を遠望。

カヤトの原と紅葉の箱根外輪山、息をのむほど美しい。根府川駅へ下り分解。いそいで帰宅、

YMCCの忘年会に滑り込む。中島さん手製の「自転車デコレーションケーキ」をもらう!


これが最近一ケ月の私の行状だ。一年間乗ってすっかり体に馴染んだパナソニック・デモンタを駆って、

失われゆく日本の自然を風のように駆け抜ける(といっても近場ばかりだが)。

ちょっと重いが、しっかりしたフロントキャリアとドロヨケがうれしい。孤独な、そして充実した時間の

流れ。すでに私は山水画中の一点景にすぎない。流連忘返。いまの私は小説を読むことも紡ぎ

出すこともできない。同人誌とはしばらく距離をおこう。


王孫あそぴて帰らず。